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母の想いで観劇へ

高いお金を出したからといって、また、有名なオペラハウスだからといって、ステージが必ずしもよいとは限らない。それも込みこみでオペラの醍醐味だといわれればそれまでだが、そこまで寛大で慈悲深く気前のよい財布を持たず、それが故に批評する目も一段と厳しくなる人間にとって、ステージや歌手がさえなかったりすると結構がっかりする。「そんなに悪くはなかったと思うわ。おっほっほっ」といつかはゆったり構えて扇子を煽いでみたいものだ。

例えば2006年に絶賛されたロイヤルオペラハウスのフィガロの結婚は今年の5月のステージに関しては口をそろえてその痛々しさがひしひしと伝わってくる内容の批評だった。予約しようか迷っただけに見に行かなくてよかったと思わざるを得ない。今年の5月に見に行った椿姫(今日本で公演している)は全体的には「まあまあ」のステージ。

「まあまあ」ってどんなだ?こんな感じ:

瞬間的にLa Traviataの世界へ引き込むOvertureの悲壮なバイオリンの音。やー、やっぱりこのオペラハウスのアクスティックはいいなぁ...と賞賛。静かな演奏が止まり、ベースもろもろがが入ってくる寸前の例の「間」。これをあたかも狙ったかのようにNOKIAのリングトーンがオペラハウスに響き渡る。そ、そうくるか?携帯の持ち主の首をその場ではねたくなる思いを皆ぐっと抑える(自分じゃなくてよかった、と思った人も結構いたに違いない)。

それはそれとして。一気に盛り上がるAct IではVioletta(Ermonela Jaho)もAlfredoも(Saimir Pirgu)もどうもぱっとしない。艶と深みのないビブラートだけがひらひらと耳につくソプラノ、演技下手で誠実だがこれまた艶のない歌声のテナー。「うわー、財布をはたいて空クジひいちゃったよ」いう気持ちになる。ACT IIに移り(最初のAlfredoのソロはあまりに退屈で笑えた)、Alfredoの父親役の安定感のあるバリトン(Dimitri Hvorostovsky)でステージは救われ、それに呼応してか、Violettaの悲壮と絶望を歌い上げるソプラノの存在感が一気に増し、観客をドラマに引き込む。場所をパリに移したカラフルなパーティーシーンは豪奢で、ACT IIIではJahoのうわさ通りの迫真の演技で、これを観れただけでもよしとしよう、という気持ちになった。She was not good at acting joie de vivre, but was brilliant at dying。観劇という経験は不思議なもので、カーテンコールでのPirguのうれしそうで天真爛漫な笑顔を見たら不思議に不満も消えていった。彼にBravoと叫んだ観客を「身内に違いない」と思いつつ。だから全体的には「まあまあ」という結論。

さて、先日購入した10月のRigolettoのチケット。実をいうとこれもまた旦那抜きの自分の小遣いから出した自分だけのチケットだった。しかし相方が傍で夢中になっているといやがおうにも興味は沸くもので、一緒になってCDやDVDやTVを観たり聴いたりしているうちに今や彼はすっかりオペラファンと化してしまったようだ。

それでも10月の公演に関しては「いいよ、いいよ。僕はそんなお金出せないから、君だけでいけばいい」といつもの通り言う。しかし、言葉に以前と同じ信憑性が感じられない。

先日BBC2を通して生中継されたイタリアMantovaからのライブフィルムのRigolettoのACT IIIで息絶えるGilda(Julia Novikova、非常に愛らしい演技で美しい歌唱だった)に自分を残して逝かないでと叫ぶRigoletto(テナーで押し切るバリトンの物足りなさは有名さと演技力でカバーのDomingo)のシーンに涙を流してのめりこんでいる。

「いとしい子供のためなら」という母親の気持ちはこういうものに違いない。ため息をついて先日自分の貯金額をチェックした。自分にお金をかけない私は貯金が貯まるのが結構早い。当たり前か、使わないんだから。自分の分を支払った後でももう一枚分だけなら払える。「これからは自分のお金は自分のために使おう!」と最近決心したばかりなのにな。

こうしてまだ残っているGrand Tierの私の後ろの席を彼のために予約した。メールで知らせるともう有頂天。それ以来朝に晩に「僕はRigolettoを観に行くんだ~」と毎日本当に楽しみにしている。ディズニーランド行きを約束された子供のようだ。彼は最近ずっと仕事が大変で疲れ気味だっただけにいいプレゼントをしたという気持ちになった。

しかし、今回の配役もあまり期待できない。

Dukeは演技力が乏しく、声にボリュームと深みがないと批判されたWookyung Kim(役に必須のテストストロンが感じられないんだよな、この人)、Gildaはなぜか甘い歌声のEglise Gutiérrezから急遽変更されてPatrizia Ciofi(結構ショック、でもDavid McVicarのショッキングで勢いのある舞台にあっているかもしれない)、Rigolettoは迫真の演技のPaolo Gavanelliではなくもちょっと若手のDimitri Hvorostovsky。うーん、結構暗雲がだだよっている。

今回のステージもDimitri Hvorostovskyが舞台を救うことになるか。
あまり期待しないで見に行こうっと。
by uk_alien | 2010-09-11 02:30 | music

カメラ小僧のイギリス帰化人。愛機はライカM10-P。はたと思い立って始めた大人ピアノ初心者で目下楽しくて仕方がないピアノ練習をブログに綴る日々 ー London UK


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