私は滅多に苦情は言わない

以前にも書いたが、南仏からCalaisまでの道のりは長い。とても、とても、長い。

AvignonからA7にのって、Lyonまではガッツで突き進むのだが、Beauneあたりでそのガッツは完璧に底をつき、DijonからTroyesまでのストレッチは永遠に続くとしか思えず、TroyesからChalons-en-Champagneにかけては永遠の二乗を廃人状態で時空を超えて運転しつづけることになる。

6時間の長いドライブを終え、Chalons-en-Champagneの手前で予約してあったホテルにようやくたどり着いた。ここは二つの小川に囲まれた美しい庭と静けさが売りのホテル。しかし、町に入って小川のせせらぎを耳にすると、即座に南仏の経験から小川=蚊という図式が頭に浮かんだ。いやな予感...は的中。駐車場に車を入れ、車から足を踏み出した途端に薮蚊の集中攻撃。

庭でウォルターの用足しを済ませなければならない旦那を薮蚊の餌食に残し、私はチェックインに向かった。ホテルのメインのテラスではDJとテラスのテーブルのセッティングをしている。

ん?DJ?

「今夜はスパニッシュナイトなんです」といいながらオーナーの女性が受付にやってきた。「コメントに犬を連れているとあったでしょう?メインビルディングとテラスは犬を連れ込めない決まりなので、お部屋は'パビリオン'になります」

なんとなくネットのレビューを読んでいてこの'パビリオン'に泊まるべきではないような気がしていた私は、わざわざそれを避け、全室禁煙/バスタブ付のメインビルディングの部屋に予約を入れていた。一瞬、一言いってくれればキャンセルして別のホテルにしたのに、とも思ったが、まあ、犬付だしそういうホテルもあるかな...と思って鍵を受け取った。

その'パビリオン'(↓)と呼ばれる近接の建物に回ると、予想的中。色気もそっ気もない管理人部屋のような安っぽい建物で、更に、メインの扉を開けると一気にdamp - 抜けきれない湿気の匂いが鼻をついた。ホールの階段の下には市販の除湿機が置かれている。

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なんとか気を取り直して部屋に入ると、それまでの湿気に、更にこもった熱気が加わった。部屋のつくり上、外気を取り入れるには安っぽいPVCのフレンチドアを開けるしかないが、そうすると表の薮蚊が部屋に入ってしまうため、ずっと閉まったままなようだ。

天井や壁には以前の泊り客が正当防衛のために虐殺した薮蚊達の殺害現場(蚊の足であろうと思われる黒く細いものがへばりついた数々の血痕の筋)がリアルに残っている。ドアのガラスを見ると、薮蚊たちが既にへばりついてチャンスを狙っている。夜になって蒸し暑くてもこのドアは開けられないと悟った。ふと、モーテルを舞台にしたスプラッタームービーのトレーラーが思い出される。この際、フレンチドアからのナイスなcar park view=カーテンを引かない限り、駐車場から部屋が丸見え、という事実はマイナーな問題として脇に追いやった。

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さすがに運転疲れを隠せない旦那に、どうする?と問いかけた。「この暑さじゃどうせ僕は眠れないよ。Calaisまで行って宿を探してもいいよ」と、旦那。

部屋に隠れていたのだろう、腕にとまった薮蚊をばしっと叩き潰して私はしばし沈黙した。これ以上旦那に運転させたくはないし、私も一日中車の中で西からの熱い日差しを浴びて大分参っている。冷たいシャワーを浴びて食事をとれば少し気分も回復するかもしれない。どうせ朝も早いのだし、我慢しよう、ということに決め、私はシャワーを浴びに浴室に入った。

窓のない浴室のファンは弱すぎて湿気を外に押し出すパワーは全くない。しかも、シャワーの排水溝は詰まって水の流れが悪く、シャワーを止めた後いつまでも水が足場に残っている。

信じられないところだな、と二人であきれつつ、クーラーバッグからあらかじめ用意してあった食物を取り出し、ワインと一緒に簡単に食事を済ませた。TVではポップ音楽祭が生中継されている。そろそろ眠ろうかと思い、TVのスイッチを切った。と、がっちり締めてあるフレンチドアにもめげずに、表の「スパニッシュフェスティバル」の音楽がどっと部屋に流れ込んでくる。え?もう22:00だよ。更に、反対側の入り口のドアからは、別の音楽がものすごいボリュームで流れ込んできた。驚いてドアを開けてホールに出ると、オペラ。

部屋に戻り、もう一度TVをつけてチャンネルを回す、と、VerdiのRigolettoが上映されていた。隣に泊まっている犬連れの老夫妻が外の音楽に嫌気をさしたに違いない。

しゃ、しゃれにならない...。

30分待った。テラスの音楽もオペラも止まない。Relais du Silenceに登録されているから選んだのに...。旦那は疲労と過酷な現況が重なって、既に真っ白に燃え尽きて灰になっており、次のアクションプランを立てる気力は皆無。

時計が22:30を回り、外の音楽がRicky MartinのLivin' La Vida Locaにかわり、隣の部屋からのリゴレットとステレオ状態になったときに私は意を決した。「これはひどい。ひどすぎる。これでお金をとるというのはアンフェアにもほどがある。I must go. I must tell them now.」

返金をしてもらい、部屋を引き上げよう。返金されないとしても、ここにはいられない。という腹を決め、二人で表に出た。テラスに向かう途中でオーナーの旦那の方に出くわす。攻撃的になるつもりはないけれど、しっかりと怒りと不満を顔と声に表しながら話を進める。

「犬の件で勝手にパビリオンに回されたのはホテルのポリシーとしてよしとしましょう。でもあなたたち、湿気の問題があのパビリオンにあることをわかって客を泊めているでしょう。除湿機を見たわよ。ひどい匂い。建物に入ったらすぐに誰でも気付くわ。唯一表の空気を入れられるフレンチドアはあなたたちががなりたてているあのやかましい音楽と薮蚊のせいで開けられない。おまけに、隣に泊まっている老夫婦はテラスの音楽をかき消すのにTVのオペラをものすごいボリュームでかけている。私達にしてみれば、もうステレオ状態の二重苦よ。でもあえて私は隣の老夫婦に同情するわ。大体、あなたたちのホテル、Relais du Silenceのメンバーでしょう?」

彼によると、庭の見栄えと小川に囲まれた立地がcharmingだからRelais du Silenceのメンバーなのだそうだ。シャンペン地方のピークシーズンにやってきて、テラスで音楽が真夜中まで続くのは当然のこと、らしい。

「真夜中...」と私が悲鳴に似た感嘆をあげた。「もしそうなら、あなたたちのウェブサイトもとてもミスリーディングだわ。長時間のドライブの後、暑い夜に湿気がこもる建物で音楽がうるさくでドアも開けられない、眠れない - どこが平穏なの?無責任にもほどがある」

受付に帰って相談した後、部屋に電話を入れるという。

部屋に帰るとすぐに電話が鳴った。「本館の最上階、テラスと反対側に位置する部屋に空きがありますのでお気に召すようであればそちらにすぐに移れます。部屋を見に来てください」という。すぐに見に行くと、そこは全くの別世界。テラスのおちゃらけた音楽は殆ど聞こえず、湿気も匂いもない。エアーコンディションが行き届き温度も適切で、ゆったりしたバスルームにはバスタブがある。すぐにOKし、荷物をとりにパビリオンに戻った。隣のオペラはまだがなりたてている。文句を言えば彼らも本館に移してもらえるのだろう。でも結局は自分の面倒は自分でみるしかないのだ。私達は犬のベッドやら荷物やらをわしっと掴んで光のスピードで本館(↓)に移動した。

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朝起きて車に向かう途中、「薮蚊も夕方よりはひどくないだろうから、彼らの自慢の庭を一瞥してから行こう」といってそちらの方へ歩きはじめ、思わず声をあげた。「え?これだけ?」

写真の与えるイメージというのは恐ろしい。もし庭のことも何も知らないで(蚊の出てないシーズンに)やってくれば「Ah. This is charming.」という言葉も口をつくかもしれない。でも、鉦や太鼓を鳴らして自慢するほどの広さでもないよな、というのが正直な感想だった。

遅まきながらやってきた蚊の大群をやりすごし、あわてて車に乗り込んで私達はCalaisへと向かった。
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Commented by ihoko at 2008-07-06 15:07 x
同じような経験・・・私もありますよ。犬連れOKと出ていてもその実、ひどいもので、掘っ立て小屋に押しやられるケースが2回続いてそれ以降、泊りがけの旅行は慎重になりました。HPは詐欺まがいが多いし・・

私のブログにも載せましたが、ハーブで作る蚊を寄せ付けない液体。結構役に立ちますから、是非、お試しになってね。
イタリアではね。2年ほど前からアフリカから来たらしい猛毒性のある薮蚊に刺されるとその後、高熱が出たり(マラリアみたいですけれど・・違うらしいです)吐き気がしたりという人が、病院に運び込まれるケースがいくつかあるんですよ。来年はお出かけになる前に、色々ご用意されて、気をつけてね。
Commented by uk_alien at 2008-07-08 20:35
■ ihokoさん、ほんと、ホテル探しは難しいですね。いい勉強になりました。
そのアフリカからの猛毒性のある薮蚊、すごそうですね。私はさされると結構ひどいめに合うタイプなので、次回は虫除けを持参します。
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by uk_alien | 2008-07-06 06:35 | holiday | Comments(2)

カメラ小僧のイギリス帰化人。愛機はライカMモノクローム。はたと思い立って始めた大人ピアノ初心者で目下楽しくて仕方がないピアノ練習と音楽理論の勉強をブログに綴る日々 ー London UK


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