Food Horror

今更なのだが、イギリスの食文化は、悲惨だ。

テーブルクロス上にぞろりと銀食器が並ぶレストランでは火を通しすぎた肉と野菜にとんでもない値段を払わされ、味覚を破壊する強烈な濃縮砂糖味のチョコレートバーはチョコレートの味がせず、白魚の半身を芸もへったくれもなく厚さ5mmはあろうかというぶあつい衣にくるんでまるごと揚げるフィッシュアンドチップスを多くの人々はヘルシーだと信じて疑わない。多くの母親は忙しすぎて料理をする暇はなく、スーパーマーケットで売られている野菜は水っぽくて味がしない。

外食、家庭料理、子どもにもたせるランチ、学校給食、テイクアウェイ、お菓子、ケーキ...どこをどうスライスしても、イギリスの食文化で自慢できるものはまずないのではないかと疑う。

それでも、郷に入れば郷に従え、というもので、長く住めば慣れてしまう。それどころか、愛着さえも湧いて来る。一切れでディナー分のカロリーが摂取できるM&Sのコーヒー&ウォールナッツケーキ(キャロットケーキも捨てがたい)、近所のキプロス人の店のハドック&チップス、いつも「スペシャル」で作ってくれる香港チャイニーズの店のテイクアウェイ...。絶対に体にいいはずないのだが、ま、これも異文化適応の一貫、と思って深く追求はしなくなった。

しかし、9年間イギリスに住み、砂糖とバター味のケーキをつまんで「Hmm, this is delicious. I might have another slice.」と心から言えるようになっても、それでもどうしても合点がいかないのは、どうして近隣国に比べてイギリスの食文化のレベルがこんなに低いのか、ということ。納得がいかない。

で、今読んでいるのがこの本。

Bee WilsonのSwindled: From Poison Sweets to Counterfeit Coffee - The Dark History of the Food Cheats

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食品添加物を使用することで消費者の健康を省みず儲けてきた食品製造者というのはいつの世にも存在してきた。その歴史をとても読みやすく書いている本なのだが、読んでいくうちに、なぜイギリスが食べ物の味と質に無頓着になってしまったのかがだんだん見えてくる。ノンフィクションFood Horror。事実は小説より奇なりとはよくいったものだ。

スーパーに行って気楽に食品が買えなくなる、という副作用付。
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Commented by hiroex at 2008-07-14 16:31 x
小説より怖い現実...。
他人様の食べるものに文句をつけるのはどうかとは思うのですが、やっぱり何故ヨーロッパの中でイギリスだけ?って謎は解けません。
そう言えば先日の帰国時に食べた日本のお上品ケーキに一瞬「甘くない」と思ってしまった自分...恐るべし環境の力です。
Commented by ihoko at 2008-07-14 17:31 x
添加物の入った物とか・・化学調味料の味に慣れていた頃(日本在住時)はなんとも思わなかったのですが、最近、頂物のラーメンとか食べると、その化学調味料の味だけが、しつこく舌に残るんですよ。
これはこれで悲惨です。美味しいと思ったもの、あれほど食べたいと思っていた日本の物のありがたみが薄れる。
イタリアのケーキも甘いですが、バターは殆ど入っていないんですよ。alienさん一度、サルデーニャに行かれて見てくださいね。。本当に美味しい。イタリアなんかより遥かに美味しい。
から・・。
Commented by 素朴な疑問 at 2008-07-15 11:54 x
初めてコメントします。 いつも楽しみに読ませていただいてます。 

豪州在住なので、イギリスの話題は沢山入ってきますが、一つかねてから疑問に思ってたことがあるのでお聞きしますね。 

世界的有名セレブシェフの、Jamie OliverとかGordon Ramsayとかはイギリス人ですよね? よね? とくにGordonなんかは、最近始まったTV番組で、他の有名人シェフのことをボロクソ言って(半分ジョークみたいでしたが)いましたが・・・。 彼は、いつもオレ様の料理は一番!みたいにえばってますよね。 それに、Kitchen Nightmare の方では、番組見てるとレストランとかが改善された後は、料理がそれほどまずいようには見えませんが、実際のところ、どうなんでしょうか。 

すごく疑問なんです。 Gordonがあれだけえばるので、イギリスの食文化は実はそんなに(評判ほど)悪くないんじゃないか?(あるいは、井の中の蛙か)、という印象をうけていたところだったので、実際のところはどうか、とっても興味あります。 
Commented by uk_alien at 2008-07-17 02:02
■ hiroexさん、
>日本のお上品ケーキに一瞬「甘くない」と思ってしまった自分...
危ない~、危なすぎる~...笑。でも普通の人は大抵味覚の絶対値になんか頑固にしがみつくことはないから、甘さや塩加減などの好みも住んでいるところに影響されますよね。
とはいっても、マークスのコーヒー&ウォールナッツは危険すぎるので、大好物の(美味しくもなんともないとわかっている)ドーナッツに並んで「自分では絶対買わないアイテムリスト」に載せてるんです。
Commented by uk_alien at 2008-07-17 02:08
■ ihokoさん、イタリアより美味しいサルデーニャ.....
もうThe Shawshank Redemptionで「Zihuatanejo....」と夢見る眼差しでその地名を繰り返すモーガンフリーマンのようになってしまいます。
科学調味料の件、なにをおっしゃっているのかわかります。「ほんだし」が美味しく感じられなくなってしまった....。かといってかつおぶし削るほど暇もお金もないのに....。
Commented by uk_alien at 2008-07-17 04:05
■ 素朴な疑問さん、Gordon Ramseyの番組は面白いですよね。彼のレストランビジネスにかける情熱が私はとても好きです。彼のシェフとしての類まれな才能と技量は批評や授与された等級で証明されていると思います。ミシェランスターシェフの激励で食文化の根幹が変わればJamie Oliverがあんなに学校給食改善で苦労することもないと思うのですが...実際はそんな簡単なものではないのでしょうね。
イギリスはお金が沢山あれば豊かな食生活が送れると思います。また、まあまあのお金しかなくても、食材や店、レストランを注意深く吟味する頭と時間があれば美味しい食生活が送れると思います。しかし、お金がない、時間がない、その両方もないという二重苦になると、そういう状況の人をサポートする食文化(大衆で共有する食材の知識とモラル/調理の技術/料理の意欲等)が欠落しているため、悲惨な食生活が世代を超えて引き継がれていくという図式になっているようです。
Commented by uk_alien at 2008-07-17 04:05
この食文化の欠落(といってもここでは日本で生まれ育った私が理想とする「食文化」なのですが)は一体何が原因なのでしょうね。

人間の悪性、貧困、飢饉というユニバーサルな要素に加え、囲い込み政策の急速化による農民食文化の喪失、化け学の進歩による食品の質の低下、それを正当化したLaissez-Faire(政府の介在なき自由な商い)の理念、それをいいことに食品の質低下を規制することなく野放しにした英政府の怠慢、ギルド制度の早期崩壊...
18-19Cあたりに歴史的な食問題の要素が密集しているようですが...まだまだ別の要素があるのではないかと模索中です。
Commented at 2008-07-17 07:21 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by uk_alien at 2008-07-18 01:49
■ 隠しコメントさん、怖いですよ~ 笑。でもライトタッチで書かれているので面白くどんどん読めます。

食品添加物の混在を世に知らしめた一人がHassallという名の引退した医師で、彼が家に設けた、いわゆる「ホビー」の研究ラボがこれに多大に貢献することになるんですが、そこのくだりで著者が「The history of British food might have been very different if Hassall had chosen stamp collection instead.」と書いていて、電車の中で微笑んでしまいました。

私の母は無学さからか無関心さからか、私に意識的に何かを教えるということが全くなかった人です。それでも、百姓出身の彼女が清貧な家庭料理を素材から作っていたのをいつもいつも目にしてきたおかげで、私にはいまだに「食事は素材を買ってきて自分で作るもの」という哲学がしっかりしみついており、母がよく作っていたようなシンプルで健康的なものが今でも私の理想の食事です。

この「しみつき」がとても興味深いんです。とどのつまり、食文化伝道の場って、やはり家庭なのね、と。当たり前といわれればそれまでですが 笑。
Commented by 素朴な疑問 at 2008-07-18 22:44 x
ご丁寧なお返事をどうも有難うございます! そういえば、イギリスは階級社会である、という事実をいつも見落としていたような気がします。 そういう意味での食文化の貧困さは、またイギリスと理由は違うかも知れませんが、内容的にはオーストラリアも同じような感じですかね・・・。 「素材を買ってきて自分で作るもの」という感覚が体現されている食事が、一般家庭の食卓に頻回に現れるということは、あまり一般的でないと思います。 食品の質の低下や化学物質の乱用による食文化の貧困化は、健康の観点から言っても、未来の子供たちに影響を与える、重要な問題だと思っています。 なんとか、一般市民(自分含め)の食事に対する考え方が変わる方法が見つかればいいのですが・・・。 課題は大きいですね。 

なにはともあれ、コメント返し有難うございました。 これからも楽しみに読ませていただきます! 
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by uk_alien | 2008-07-14 06:35 | books | Comments(10)

カメラ小僧のイギリス帰化人。愛機はライカMモノクローム。はたと思い立って始めた大人ピアノ初心者で目下楽しくて仕方がないピアノ練習と音楽理論の勉強をブログに綴る日々 ー London UK


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