ロールモデル



犬の散歩の途中、久しぶりにカメラマンのおじさんに会った。

「おお、ずっと会ってなかったね。元気かい?ここのところ、妻の具合が悪くてね。なかなか朝早くに犬の散歩に出られないんだ。それに、今風呂場を改装中で、水道工が来る前に朝のシャワーが浴びれない。やれやれ」

「ああ、どうりで。フロントガーデンにスキップ(廃棄物用の巨大なコンテナ)が置いてあるのを見ましたよ」というと、「そう、フィルムの暗室用の写真の器材や、古いスライドなんかも全部処分しているんだ。そうしないともう家の中で場所をとって、場所をとって」

世界に散らばるおじさんの写真のファンは喜んでこのスキップをあさりに来るだろうに...と思いながら、「どんな気がしますか?やっぱりちょっとさびしい気がします?」と聞くと、

「うーん、自分の人生だからね。50年代のスライドから全てとってあったから。ま、さびしいけどでも今このときが大事なんだよね。馬や犬と同じ。歳をとり、手放してゆく。そういうものでしょう?」

という。うん、そういうものだと思う。

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「ウェブサイトであなたが初めてシャッターリリースを買ったときに試しに撮ったという写真が載っていました。載せた人は、その写真に啓発されて写真家になったと書いていましたよ」

「ああ、あの写真。あれはV&A博物館に展示されているんだ。そのアイディアを試し始めた当時、シャッターリリースでスポーツ写真を撮るなんてばかげている!と言われたものだけれど、実際そうやって撮った写真を使っても誰も区別はつけられなかったんだ」

おじさんは、スローシャッターを使いながらその最中にズームリングを回してドラマチックな効果を得るという手法を生み出し、スポーツ写真で使った第一人者でもある。

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「この間、写真家としての貢献で、トップ10に選ばれ、賞だか称号だかが与えらるというのだけれど、ロンドンで4時間のランチなんてもうとてもじゃないけど耐えられないから断ったんだ。今でも展示会があちこちで開催されてるんだけど、僕は行かない。そういうのとか、レクチャーとか、好きな連中は好きだけどね。ego tripってやつだな。当時一緒に仕事をしたマグナムの写真家なんかは未だにレクチャーで飛び回っているよ。僕は嫌だな。人生にはもっと重要なことが沢山あるもの、家の庭、犬の世話、それに息子(フォトグラファー)のビジネスを助けること。それらの方が僕にとっては大事」

おじさん、かっこよすぎる。
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Commented by ihoko at 2008-11-15 15:28 x
・・・・かっこよすぎる。
が、愛する妻に恵まれ、帰ればホッとする家庭に恵まれ、自分が自慢できる息子に恵まれ、暖かさの意味を知る誰よりも幸せな人。
Commented by uk_alien at 2008-11-15 19:21
...でしょう?
私、こういう普通にすごい人にさらっと出会えるという偶然に感謝してしまうわ。有名だったからすごいんじゃなくて、有名になるだけの実力があって、でも有名という部分におぼれず、何が自分にとって大事なのかを人生で決して失わなかったという人。
この人スポーツ写真だけじゃなくて、セントポール寺院で行われたウィンストン・チャーチルの葬儀の際に、Telegraphに雇われて特集号のために写真を撮っているの。しかもTelegraphが押さえた一番のプライムポジションにアサインされて。
Telegraphの当時のフォトエディターの引用で、
「彼(おじさん)にこのプライムポジションを与えたのは、彼が望遠レンズ、広角レンズ、魚眼レンズを 使った異例な写真を撮影する腕を持ち、100%信頼できるとわかっていたから」
これに答えるおじさんの引用に
「100%信頼できる腕を持たざるをえなかったんだよ。なにせ5人の子どもを食わせていかなくてはならなかったから」
とある。もう、おじさんったら。やっぱりかっこいい。
Commented by muddymama at 2008-11-16 09:01 x
うん、うん、かっこいいですね。
こういう方は、何をやってもセンスとか信念とか運が解決してしまいそう。
結果ではなくて、姿勢に憧れますよ。
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by uk_alien | 2008-11-15 03:54 | neighbours | Comments(3)

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