<   2008年 07月 ( 15 )   > この月の画像一覧

ショッピングアシスタントたるもの

だんだん歳を重ねてきたせいか、ハイストリートショッピングのために、「他人を尊重する」という観念がごっそり頭から抜け落ちている連中がうようよしている場所に行くのがどうしようもなくうざったくなってしまった。そういう場所にある店の店員はいない方がいいくらいに役に立たないくせに、こちらが会計したい時は決まってレジにはいないことが多い。やれやれ。

便宜上私たちがショッピングに行く街はそういう所。雰囲気は最悪。どうしても行かなければいけない場合はとっとと用を済まし、腹の虫をきっぱり無視してお茶も飲まずに速攻で帰宅する、というパターンをいつも繰り返す。

先週末、再びこの街へ出向かなければいけなくなった。16年間オンオフで使い続けた白山眼鏡堂の眼鏡フレームが先日の事故でぼっきり折れてしまったからだ。会社からeyecare voucherを受け取り、適当な店で検眼を済ませる。ここからが問題。自分に似合い、かつ気に入るフレームを見つける自信はゼロ、ゼロ。もう、マイナス。

大体、今はやりのプラスチックで鼻パッドがないタイプ、私、鼻がないから止まらないんだってば。いくつか試してみても、どうしてもChannel4のHow to look good nakedのGok Won(↓ 私は彼は派手目な眼鏡は似合わないと思う)が鏡に映った自分に重なり、うんざり。少しおとなしめのメタル素材でも、個性的「あ、これいいな」と思うものはオリエンタル顔にのせるとぜんっぜん似合わない。

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なんとか気を取り戻し、3軒目に臨む。

ここは数週間前旦那の新しい眼鏡を選んでいた際に見つけたひっそりと地味目な感じの店。そのときは結局何も買わずに出たのだが、歳のいったオーナーらしき男性の、思わずタイムスリップしたのかと思わせる品のある応対が非常に印象的だった。単にブラウズしただけでこちらをいい気分にさせてくれるような雰囲気。「今どきこんな店があるんだ...(しかもこの掃き溜めの街に)」

更に興味深いのはそこの品揃え。点数自体は大した数でもないのに、コペンハーゲン、パリ、ロンドンのデザイナーなど、たいそう個性的、かつファッショナブルで美しいデザインの商品を幅広く揃えている。



私が真剣に選んでいるのと、女性の店員さんが適度なタイミングで声をかけてくれた。「どういう感じのものをお考えですか?」

「私は派手なパーソナリティーの持ち主ではないのでin your faceな感じのデザインは向かないと思うんです。でもやっぱりどうせ買うなら地味すぎるものではなく、今までとはちょっと変わったタイプを買いたいと思っています。あと、鼻のブリッジがないからパッドのないものはデザイン的にちょっと難しそうで...」

そこから、アート、とも呼べる彼女のpersonal shopping assistanceがはじまった。経験からかどの辺がサイズ的に合いそうかわかるようで、その上で次々に異なるデザイン/色を持ち出し、私(と旦那)の反応をしっかり見て、フィルターにかけていく。

「これはメタルで控えめなデザインだけれど、色がすこしboldなもの。そしてこれがその色違い。ちょっと違う?地味すぎる?これもメタルだからプラスチックよりはおとなしい感じだけど、少し太目のフレームで色も赤だからインパクトは少し強め。これがその色違い。候補になりそう?じゃこっちに置いておくわね」と、程よい説明を加えながらインパクトの強さの好み、色合いの好みを定めてゆき、顔かたちにフィットするデザインかどうかもチェックしていく。

更に、私一人だったら絶対手にも取らないだろうけど、私に似合うと彼女が思うものを持ってきては試させてくれる。「これはプラスチックで鼻パッドがないけど、デザイン上きれいにホールドできると思うのよ...ほらね。似合う。」あらら、驚き。本当に似合うし、実際掛けてみるとそんなに大胆でもない。

こうして最終的に3種類に絞られた。信じられない。底なしの注意深さに根付いた亀の歩みにもおとる私の意思決定ののろさを考えると奇跡的なスピードだ。「I'll leave it to you guys for a while」といって彼女はすっと離れた。フレームの強度やフィット感、色合いなどで割りとすぐにどれにするか決まった。

戻ってきた彼女が気さくに、「数日間考えてみます?デザイン番号をメモっておくからまた戻ってきたときにすぐどれが気に入っていたか取り出せるように出来ますよ」という。

「いえ、大丈夫。これにします」

コンピューターにプロファイルを作っている際に生年月日をきかれたので答えると、彼女が嬉々として叫んだ。「それ私と同じ誕生日!偶然だわ!(品のよいオーナーに向かって)初めてよ!なんかとてもうれしくなっちゃう!」

なんとなくそれをきいて、ウマの合いように納得できるような気がした。

品揃えについて質問すると、アルマーニだけは根強い人気なのでストックしているが、あとは全て手に入りにくい個性的なデザイナーのものを中心に揃えているという。「でなければどのショップも皆同じでつまらなくなってしまうでしょう?」

イギリスに来て初めて、もうこの上ないショッピングの楽しみを味わった。フランスのレストランでいいウェイターについてもらったような、あの感じ。

顔かたちや顔の色に合う個性的なものが選べた、と思う。
出来上がりが楽しみだ。
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by uk_alien | 2008-07-29 06:33 | great about it | Comments(4)

This is not just a pudding...

日本のケーキを最後に食べたのはもう何年も前で、どんなものだったかももうすっかり記憶の彼方に埋もれてしまった昨今、であったが、先日、日本の小麦粉を使って作ったという友人の手作りのケーキを食する機会があった。

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もう、信じられないくらい美味しい。びよんどびりーふ。
特にスポンジ。オレンジの風味がほどよくしてイギリスでは絶対にありえない軽さに仕上がっている。ほんのり甘いホイップクリーム(注:ダブルクリームじゃない)と口の中でふんわり交わると、それはそれは繊細な食感。嗚呼!

ケーキ名人の彼女によると、日本の小麦粉はきめが細かいのでこの独特なふわっとした食感が作れるのだそうだ。サマーベリーズのぷちぷちとした食感がアクセントになって、もう極楽。

神様、そして友人様、ありがとう。
(祈ってる)
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by uk_alien | 2008-07-26 01:33 | food & drink | Comments(0)

Crème d'ail

20年くらい前に被った鞭打ちのせいで長年苦しんできたので、今回の鞭打ちで、お互いキャンセルアウトしてくれないかな、とひそかに思いつつ、Life goes on、と、通常の生活を公共交通機関に頼って送っている毎日。

それでも風邪はまだ抜けない。

この風邪を私に感染してくれたお局様も、私が感染してしまったうちの旦那もまだ抜けてないからかなりしつこい輩なようだ。日本でのわかりやすかった風邪が恋しい...。

さて、先日、プロバンスのマーケットで売っているアーティチョークベースのペーストのことを書いた。自分で作ってみたいがアーティチョークが手に入りにくいとぼやいたところ、Lavenderさんが缶詰で売ってるよ、と教えてくれた。

ショップでは見つからなかったこの缶詰、今回初めてネットで食材の買い物をしたところ(まだ車がない)、売っていたので早速購入、ペーストを作ってみた。

今回使った材料は

アーティチョークの水煮缶詰
オリーブオイル
ガーリック
ハーブ塩

とシンプル。最初にアーティチョークを半分フードプロセッサーに入れ、それだけでどんな感じか試してみる。いけそうなので、生のガーリックとオリーブオイルを少しずつ足し、ハーブ塩で味を整え、更にいけそうなことを確信してから分量を倍増した。

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超簡単。レモンかライムで酸味を利かせてもよさそう。生のアーティチョークを使った方が絶対に美味しいと思うが、ま、仕方がない。
結構いけて、ちょっとフレンチィ。
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by uk_alien | 2008-07-25 07:00 | food & drink | Comments(2)

不幸は突然やってくる

いずれは自分に起きるんじゃないかと思っていながら、自分だけは大丈夫、とたかをくくっていた。

が、ついに起こした、追突事故。

最近、ぬけきらない風邪のせいで頭がぼうっとして判断力が鈍っており、高速で車線変更をするときなどは普段よりも注意深くなっていた。

高速から逸れ、ジャンクションのラウンドアバウトに向かって降りる2車線のスリップロード。左側の車線が先頭でつまり気味だったため結構なスピードのまま右側の車線に移ろうとドアミラーをチェックした。車あり、行けない。前方に視線を戻し右の車をやりすごしてから再びドアミラーをチェック。ちっ、また別の車だ、行けない。再び前方に視線を戻すと、私の車の二~三倍の値段はしそうな車が目前に迫ってきた。

「You, stupid! Why aren't you moving?」

という誠に自分勝手な思考が頭をよぎり、頭よりも賢い右足が思い切りブレーキを踏みつけ、「Won't stop, too late, here we go!」のgoあたりでクラッシュの音とエアバッグとエアバッグの火薬の匂いが一面に広がった。

一瞬気が遠くなったが、被害者気分には文字通りひたれぬと気を取り直し、エアバッグを払いのけ、助手席側から外に出る。

私が激突した車のドライバーは40代くらいのプロフェッショナルな感じの白人女性。彼女は私が追突した勢いでその前の車に突っこんでいたのでそちらの様子を見に行く。その車にはお金持ちそうなアジア系のお母さんと二人のローティーンの息子たちが乗っていた。ナンバープレートを少し損傷した程度で母親も子ども達も全く無傷なようだ。とりあえず胸を撫で下ろす。「この子達をクリケットマッチに連れてかなきゃいけなくて、急いでるの。これ、レンタカーなのよ」

私は「すみません。警察に連絡します」と一言伝えて奇跡的に充電されていた携帯で999にダイヤルし、警察を頼んで場所と状況を説明した。オペレーターと話をしている間に、Traffic Control Officerの車がたまたま通りかかって停止する。それを伝えると、オペレーターは「それでは彼らに任せますので」といって電話を切った。そうか。こういう事故では警察は立ち会わないんだ。

オフィサーのアドバイスで車を安全な場所に移動し、私達はお互いに住所と電話番号、車の登録番号を交換、後で私の自動車保険の詳細を連絡することを約束した。

情報交換が終わり、ふと気付くとオフィサーはもういない。アジアンママもさっさとクリケットマッチへと行ってしまった。

「私、首が少し緊張しているわ。でもこういう事故の後だから当然よね。ミラーで見ていてあなたが止まるつもりがないってわかったのだけれど、どこにも逃げ場がなくって。でも誰にでもそういう瞬間ってあるものよ。これはカンパニーカーだし、保険も会社がかけているの。後は保険会社同士が全て片付けてくれるわ。あなた、大丈夫?暫く一緒にいてあげましょうか?」と私に向かって彼女はいう。

私が加害者なのに、なんでこの人はこんないい人でいてくれるんだろう...という思いと、No win, no feeのうたい文句が頭をかすめる。うう、心配は後にまわそう。

「大丈夫です。職場と主人に電話をして私も動きます」

ショック状態からとりあえず立ち直り、前がひしゃげているけれどまだなんとか動く車を運転し、主要幹線を離れてカントリーロードを使いながら自宅に戻った。職場から休みをもらい、保険会社に連絡し、二人の女性に保険の詳細をメールして指定ガレージに車を持っていく。

「完璧に廃車です」

ちーん。

うう。今年はどうもついてない。
厄年だろうか。
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by uk_alien | 2008-07-22 02:45 | misfortune | Comments(9)

Food Horror

今更なのだが、イギリスの食文化は、悲惨だ。

テーブルクロス上にぞろりと銀食器が並ぶレストランでは火を通しすぎた肉と野菜にとんでもない値段を払わされ、味覚を破壊する強烈な濃縮砂糖味のチョコレートバーはチョコレートの味がせず、白魚の半身を芸もへったくれもなく厚さ5mmはあろうかというぶあつい衣にくるんでまるごと揚げるフィッシュアンドチップスを多くの人々はヘルシーだと信じて疑わない。多くの母親は忙しすぎて料理をする暇はなく、スーパーマーケットで売られている野菜は水っぽくて味がしない。

外食、家庭料理、子どもにもたせるランチ、学校給食、テイクアウェイ、お菓子、ケーキ...どこをどうスライスしても、イギリスの食文化で自慢できるものはまずないのではないかと疑う。

それでも、郷に入れば郷に従え、というもので、長く住めば慣れてしまう。それどころか、愛着さえも湧いて来る。一切れでディナー分のカロリーが摂取できるM&Sのコーヒー&ウォールナッツケーキ(キャロットケーキも捨てがたい)、近所のキプロス人の店のハドック&チップス、いつも「スペシャル」で作ってくれる香港チャイニーズの店のテイクアウェイ...。絶対に体にいいはずないのだが、ま、これも異文化適応の一貫、と思って深く追求はしなくなった。

しかし、9年間イギリスに住み、砂糖とバター味のケーキをつまんで「Hmm, this is delicious. I might have another slice.」と心から言えるようになっても、それでもどうしても合点がいかないのは、どうして近隣国に比べてイギリスの食文化のレベルがこんなに低いのか、ということ。納得がいかない。

で、今読んでいるのがこの本。

Bee WilsonのSwindled: From Poison Sweets to Counterfeit Coffee - The Dark History of the Food Cheats

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食品添加物を使用することで消費者の健康を省みず儲けてきた食品製造者というのはいつの世にも存在してきた。その歴史をとても読みやすく書いている本なのだが、読んでいくうちに、なぜイギリスが食べ物の味と質に無頓着になってしまったのかがだんだん見えてくる。ノンフィクションFood Horror。事実は小説より奇なりとはよくいったものだ。

スーパーに行って気楽に食品が買えなくなる、という副作用付。
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by uk_alien | 2008-07-14 06:35 | books | Comments(10)

BBQのアイディア探し

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フランスのガーリックはどうしてあんなに美味しいんだろう?イギリスで売られているものよりも、味や香りが生き生きしていて、料理自体をぐっと引き上げてくれる。

写真に写っている瓶詰めはプロバンスのマーケットでよく売られているアーティチョークベースのペースト。赤いのはチリとトマト味、緑色のはガーリック味。パンにつけて食べると美味しい。

材料の配分がラベルに載っていたから自分で作ってみよう、と思ったけど、うちの近所じゃアーティチョーク自体あまり見かけないし、ウェブサイトで準備の仕方を調べたら、手早く準備できるというシロモノでもなさそう...。

でも、代わりにナスをローストして潰したものを使ったら美味しいんじゃないかしらと思った。フランスから買って来たガーリックはまだ沢山残っているし....。

今度のBBQで試してみよう。

<瓶の表示にあった分量の記録>

**Crème de Piments**
Artichauts 60%
Huile d'Olive 24%
Piments 5%
Concentre de tomates 4%
Pignons 3%
Ail 2%
Sel 2%

**Crème d'ail**
Cœurs d'Artichauts 65%
Huile d'Olive 25%
Ail 8%
Sel
Vinaigre
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by uk_alien | 2008-07-10 04:00 | food & drink | Comments(4)

からっとしてさびしい

本日も風邪で沈没。

コンサーバトリーでだらりんと寝そべって金子みすゞの詩集を読んだ。

**
墓たち

墓場のうらに、
垣根ができる。

墓たちは
これからは
海が見えなくなるんだよ。

こどもの、こどもが乗っている、
船の出るのも、かえるのも。

海べのみちに、
垣根が出来る。

ぼくたちは
これからは、
墓がみえなくなるんだよ。

いつもひいきに、見て通る
いちばん小さい、丸いのも。

***

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***
みそはぎ

ながれの岸のみそはぎは、
だれも知らない花でした。

ながれの水ははるばると、
とおくの海へゆきました。

大きな、大きな、大海で、
小さな、小さな、一しずく、
だれも、知らないみそはぎを、
いつもおもっておりました。

それは、さみしいみそはぎの、
花からこぼれたつゆでした。
***
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by uk_alien | 2008-07-08 20:14 | books | Comments(2)

しっかり感染

オフィスで家具やらの移動があり、以来お局様が目の前の席に座っている。

彼女は外向的で思考が早く、英語が非常に達者で、ユーモアと皮肉のセンスは特級。でも所謂「口から先に生まれてきた」タイプではなく、hands onとかdown to earthという表現がぴったり。意地悪な印象を与える「お局様」と呼ぶのはフェアじゃないかもしれない。

カントリーサイド系の彼女、思考を言葉に出さずにはいられない昨今のオフィスではレアなタイプで、四六時中独り言を言っている。一体、周りの私達に話しかけているのか、Excelに罵倒を浴びせているのか、受け取ったばかりのメールの送り手を罵っているのか、単に電話をしているのか、察するのが非常に困難だ。お行儀のよいオフィスにYou, son of a bxxx! I didn't tell you to save, DID I?(この場合はExel)といったおたけびが響き渡る。

最近、近親の不幸や、落馬事故と不運が続いていた彼女。今度はひどい風邪をこじらした。げほげほ、ごほごほとあえぎながら、それでも罵りは止まない。

目の前に座る私はしっかりそれが感染してしまった。(いや、罵り癖じゃなく...)

鼻水、咳、熱、頭痛のフルコース。もうかれこれ一週間近く続いているのだが、ついに抵抗力は底を突き、昨日から100% invalidとなった。

今日は病欠で沈没。
苦しい...
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by uk_alien | 2008-07-07 21:11 | work | Comments(0)

私は滅多に苦情は言わない

以前にも書いたが、南仏からCalaisまでの道のりは長い。とても、とても、長い。

AvignonからA7にのって、Lyonまではガッツで突き進むのだが、Beauneあたりでそのガッツは完璧に底をつき、DijonからTroyesまでのストレッチは永遠に続くとしか思えず、TroyesからChalons-en-Champagneにかけては永遠の二乗を廃人状態で時空を超えて運転しつづけることになる。

6時間の長いドライブを終え、Chalons-en-Champagneの手前で予約してあったホテルにようやくたどり着いた。ここは二つの小川に囲まれた美しい庭と静けさが売りのホテル。しかし、町に入って小川のせせらぎを耳にすると、即座に南仏の経験から小川=蚊という図式が頭に浮かんだ。いやな予感...は的中。駐車場に車を入れ、車から足を踏み出した途端に薮蚊の集中攻撃。

庭でウォルターの用足しを済ませなければならない旦那を薮蚊の餌食に残し、私はチェックインに向かった。ホテルのメインのテラスではDJとテラスのテーブルのセッティングをしている。

ん?DJ?

「今夜はスパニッシュナイトなんです」といいながらオーナーの女性が受付にやってきた。「コメントに犬を連れているとあったでしょう?メインビルディングとテラスは犬を連れ込めない決まりなので、お部屋は'パビリオン'になります」

なんとなくネットのレビューを読んでいてこの'パビリオン'に泊まるべきではないような気がしていた私は、わざわざそれを避け、全室禁煙/バスタブ付のメインビルディングの部屋に予約を入れていた。一瞬、一言いってくれればキャンセルして別のホテルにしたのに、とも思ったが、まあ、犬付だしそういうホテルもあるかな...と思って鍵を受け取った。

その'パビリオン'(↓)と呼ばれる近接の建物に回ると、予想的中。色気もそっ気もない管理人部屋のような安っぽい建物で、更に、メインの扉を開けると一気にdamp - 抜けきれない湿気の匂いが鼻をついた。ホールの階段の下には市販の除湿機が置かれている。

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なんとか気を取り直して部屋に入ると、それまでの湿気に、更にこもった熱気が加わった。部屋のつくり上、外気を取り入れるには安っぽいPVCのフレンチドアを開けるしかないが、そうすると表の薮蚊が部屋に入ってしまうため、ずっと閉まったままなようだ。

天井や壁には以前の泊り客が正当防衛のために虐殺した薮蚊達の殺害現場(蚊の足であろうと思われる黒く細いものがへばりついた数々の血痕の筋)がリアルに残っている。ドアのガラスを見ると、薮蚊たちが既にへばりついてチャンスを狙っている。夜になって蒸し暑くてもこのドアは開けられないと悟った。ふと、モーテルを舞台にしたスプラッタームービーのトレーラーが思い出される。この際、フレンチドアからのナイスなcar park view=カーテンを引かない限り、駐車場から部屋が丸見え、という事実はマイナーな問題として脇に追いやった。

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さすがに運転疲れを隠せない旦那に、どうする?と問いかけた。「この暑さじゃどうせ僕は眠れないよ。Calaisまで行って宿を探してもいいよ」と、旦那。

部屋に隠れていたのだろう、腕にとまった薮蚊をばしっと叩き潰して私はしばし沈黙した。これ以上旦那に運転させたくはないし、私も一日中車の中で西からの熱い日差しを浴びて大分参っている。冷たいシャワーを浴びて食事をとれば少し気分も回復するかもしれない。どうせ朝も早いのだし、我慢しよう、ということに決め、私はシャワーを浴びに浴室に入った。

窓のない浴室のファンは弱すぎて湿気を外に押し出すパワーは全くない。しかも、シャワーの排水溝は詰まって水の流れが悪く、シャワーを止めた後いつまでも水が足場に残っている。

信じられないところだな、と二人であきれつつ、クーラーバッグからあらかじめ用意してあった食物を取り出し、ワインと一緒に簡単に食事を済ませた。TVではポップ音楽祭が生中継されている。そろそろ眠ろうかと思い、TVのスイッチを切った。と、がっちり締めてあるフレンチドアにもめげずに、表の「スパニッシュフェスティバル」の音楽がどっと部屋に流れ込んでくる。え?もう22:00だよ。更に、反対側の入り口のドアからは、別の音楽がものすごいボリュームで流れ込んできた。驚いてドアを開けてホールに出ると、オペラ。

部屋に戻り、もう一度TVをつけてチャンネルを回す、と、VerdiのRigolettoが上映されていた。隣に泊まっている犬連れの老夫妻が外の音楽に嫌気をさしたに違いない。

しゃ、しゃれにならない...。

30分待った。テラスの音楽もオペラも止まない。Relais du Silenceに登録されているから選んだのに...。旦那は疲労と過酷な現況が重なって、既に真っ白に燃え尽きて灰になっており、次のアクションプランを立てる気力は皆無。

時計が22:30を回り、外の音楽がRicky MartinのLivin' La Vida Locaにかわり、隣の部屋からのリゴレットとステレオ状態になったときに私は意を決した。「これはひどい。ひどすぎる。これでお金をとるというのはアンフェアにもほどがある。I must go. I must tell them now.」

返金をしてもらい、部屋を引き上げよう。返金されないとしても、ここにはいられない。という腹を決め、二人で表に出た。テラスに向かう途中でオーナーの旦那の方に出くわす。攻撃的になるつもりはないけれど、しっかりと怒りと不満を顔と声に表しながら話を進める。

「犬の件で勝手にパビリオンに回されたのはホテルのポリシーとしてよしとしましょう。でもあなたたち、湿気の問題があのパビリオンにあることをわかって客を泊めているでしょう。除湿機を見たわよ。ひどい匂い。建物に入ったらすぐに誰でも気付くわ。唯一表の空気を入れられるフレンチドアはあなたたちががなりたてているあのやかましい音楽と薮蚊のせいで開けられない。おまけに、隣に泊まっている老夫婦はテラスの音楽をかき消すのにTVのオペラをものすごいボリュームでかけている。私達にしてみれば、もうステレオ状態の二重苦よ。でもあえて私は隣の老夫婦に同情するわ。大体、あなたたちのホテル、Relais du Silenceのメンバーでしょう?」

彼によると、庭の見栄えと小川に囲まれた立地がcharmingだからRelais du Silenceのメンバーなのだそうだ。シャンペン地方のピークシーズンにやってきて、テラスで音楽が真夜中まで続くのは当然のこと、らしい。

「真夜中...」と私が悲鳴に似た感嘆をあげた。「もしそうなら、あなたたちのウェブサイトもとてもミスリーディングだわ。長時間のドライブの後、暑い夜に湿気がこもる建物で音楽がうるさくでドアも開けられない、眠れない - どこが平穏なの?無責任にもほどがある」

受付に帰って相談した後、部屋に電話を入れるという。

部屋に帰るとすぐに電話が鳴った。「本館の最上階、テラスと反対側に位置する部屋に空きがありますのでお気に召すようであればそちらにすぐに移れます。部屋を見に来てください」という。すぐに見に行くと、そこは全くの別世界。テラスのおちゃらけた音楽は殆ど聞こえず、湿気も匂いもない。エアーコンディションが行き届き温度も適切で、ゆったりしたバスルームにはバスタブがある。すぐにOKし、荷物をとりにパビリオンに戻った。隣のオペラはまだがなりたてている。文句を言えば彼らも本館に移してもらえるのだろう。でも結局は自分の面倒は自分でみるしかないのだ。私達は犬のベッドやら荷物やらをわしっと掴んで光のスピードで本館(↓)に移動した。

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朝起きて車に向かう途中、「薮蚊も夕方よりはひどくないだろうから、彼らの自慢の庭を一瞥してから行こう」といってそちらの方へ歩きはじめ、思わず声をあげた。「え?これだけ?」

写真の与えるイメージというのは恐ろしい。もし庭のことも何も知らないで(蚊の出てないシーズンに)やってくれば「Ah. This is charming.」という言葉も口をつくかもしれない。でも、鉦や太鼓を鳴らして自慢するほどの広さでもないよな、というのが正直な感想だった。

遅まきながらやってきた蚊の大群をやりすごし、あわてて車に乗り込んで私達はCalaisへと向かった。
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by uk_alien | 2008-07-06 06:35 | holiday | Comments(2)

甘美な誘惑

ホリデーで素敵な場所に行くとどうしても不動産の値段をチェックしてしまう、というのは人の常。それに応えるように不動産屋はいたるところにある。もしあなたが「いい場所だ」と思うのであれば、他の多くの人も同じように思うわけで、不動産の値段はしっかりそれを反映する。

リュベロンの不動産は高い。maison de villageなぞ、1㎡の床面積あたりの値段で考えると目が飛び出てしまう。ぽん。それでも、ホリデーホームを沢山管理するおじさんいわく、かのクレジットクランチの波はしっかりここにも押し寄せているのだそうだ。「あと6ヶ月待てば、リュベロンの不動産の値段はどかんと落ちるよ」

うーん、その「どかん」がどれほどであっても、もとの値段が値段だからなあ...。

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不景気、といってもお金はあるところにはある。ある村のてっぺんに位置するシャトーが最近売れたそうだ。このシャトー、丘にはりつくように密集する家々に向かって畏敬を放ちつつ、リュベロンの谷一帯を見下ろす。その眺めといったら...。はぁ...。

一体いくらなんだろう。想像もつかない。そこまでのレベルになると、平民は夢に見る気にさえもならない。入居前のファインチューニングのビルディングワークが進むシャトーを後に下々の世界へ下る。と、シャトーの南側すぐ下で赴き深いmaison de villageが一軒売りに出ていた。歩行者用の丸石が敷き詰められた細い道に建つその家は、家幅も広く、道をはさんだところにあるテラスは眺めがよく、夕方遅くまで陽がさしてとても心地よさそうだ。

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私達はこの時点で既に将来この地域に不動産を購入するとしてもmaison de villageは避けよう、と確信しつつあった。実は今回借りたコテッジは、前回訪れたときに「買うならここだな」と思った家(廃人フレンチ婦人宅 - 昨年から売りに出ているが高くて買い手がみつからない)の隣ということで「実地体験(?)」を兼ねて選んでいた。しかし、紙の上で理想と思えたこの売家は思ったよりとても狭いつくりだということがわかり、また、庭の代わりになると思った「眺めのよいルーフテラス」はノンタウニーの私達にとっては決して庭の代替にはならないことを確信するに至っていた。その上、ヴィレッジライフは想像していたよりも、とても、とても、close。いいも悪いもエキスパットコミュニティーが確立しているおかげで、ゴシップウェブを逃れることはまず不可能といっても過言ではない。

それでも旦那と二人でこのシャトーの足元の家に心が揺れた。こうした不動産の魅力というのはとても甘美で危険なものだ。早速、契約されている不動産屋を訪ね、高い敷居をまたぎ、詳細を手に入れた。

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うう、思ったほど高値でもない。セントラルヒーティングを入れなければいけないのと、家中の古めかしいデコをやり直さなければならないからだろう。このプロパティー、外から見たテラスの他に、二つのテラスがある。一つはキッチンのすぐ隣、北側に位置する小さめのコートヤード、もう一つはルーフテラス。ここからの眺めの写真がプロパティーの詳細に掲載されていた。「上のシャトーに引けをとらない眺めですよ」と不動産屋はいう。うう...その通りだ。すごい眺め。

コテッジに帰り、もしファイナンシングをしてホリデーホームとして貸したら...という計算を行った。うーん、4週間/年のホリデーコストと比べると、しゃれにならないくらい高価だ。最終的には不動産の支払いが終わって自分のものになるとはいえ、ブッキング状況=収入の懸念や不動産のメインテナンス、モーゲッジ返済に負われるUK側での生活のクオリティーなどを考え合わせると、今現在手元に投資価値を見込む必要のないキャッシュがどかんとあるのでもないかぎり、魅力的なオプションでは決してない。ホリデーホームとして年のうち7ヶ月をレントできたとしてもだ。

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長い旅路を終えてホリデーから帰宅した。

表側の庭ではバラが咲き誇り、モックオレンジの香りが一面に漂っている。玄関のドアを開けると、室内のオープンスペースが目の前にわっと広がり、奥のコンサーバトリーから、ダイニングルームの窓から、西側のキッチンの窓から光があふれこんでいる。あれ?家ってこんなに明るく広かったっけ?

コンサーバトリーのフレンチドアを開け放ち、蚤の市で買ってはるばる運んできたテーブルと椅子をテラスに出して、フリーザーで一気に冷やしたロゼをグラスに注いだ。自分たちでデザイン/ランドスケープし、自分たちで選んだ植物を自分たちが植えた裏庭を見ながらゆったりくつろぎ、プライベートな空間を存分に味わう。様々な色のイングリッシュローズたちが盛りの美しさを競い合っている。

こうしてホリデーは終わってしまったけれど、2週間のビレッジ生活の「怪我の功名」か、その締めくくりには、持っていないものよりも、持っているものに心から祝杯したのだった。
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by uk_alien | 2008-07-06 02:59 | holiday | Comments(2)

カメラ小僧のイギリス帰化人。愛機はライカMモノクローム。はたと思い立って始めた大人ピアノ初心者で目下楽しくて仕方がないピアノ練習と音楽理論の勉強をブログに綴る日々 ー London UK


by uk_alien
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